表裏

父を亡くしたある娘が涙ながらに父との思い出、その死に際を語っているのを見て、こんなふうに純粋に愛を表明し、悲しんで泣ける父を私は持たなかった、私は可哀想な人間だと思った。でも裏をかえせば、それは私の父には、こんなふうに純粋に泣いてくれる娘…

登場人物

あなたを見つめ、あなたを書く。死ぬまでつづく私の日記。

海苔とひるね

モニュ、お昼寝はいいね。 うん、モニュおひるねすきだよ。夕方にねて、起きてもまだ外にすこし夕方がのこってるといいよね。 いいね。お昼寝から起きたら何たべたい? あじのり。 味海苔?! ぱりぱりしたのなめるとおいしい。 そうだね、味海苔おいしいね…

胸の棘

太く硬いとげが抜けずにいたが、溶かしていくのは自分次第だとわかってきた。生きているのは私だけではない。あなたも同じように生きていて、変わっていくのだから、埋め込まれたとげもいつまでも、そこにそのままあるのではない。

天国

人が知っている自分のことを、それでも自分で発見しなければならない。

寿命の展望

体調が悪いの、と先週妹が言ったので、どのように悪いのか尋ねたら、いつもの気管支炎、と答えが返ってきた。そのとき、私は彼女よりずっと長生きしてしまうだろうとわかった。 今日久しぶりに母のところを訪れることにしていて、母はうれしがって妹も呼んだ…

明くる年にそなえて

恐竜のモニュは、来年の干支を知って張り切っている。好奇心が旺盛で、それと同じくらい責任感も強い。「えとをやるとどうなるのか」と聞いてくるので「会費が倍だよ」と言ったら、「おかねはためてある」と真剣な顔で答えるのでますますかわいい。

望まれて

嘘をついていいのは自分のことだけですよ、人のやる気や認識をコントロールしようとして嘘をついてはいけないんですよ、と思いついて、言おうとした、本当は言いたかった、言ったらどうなるか恐ろしくなった、とどんどん気持ちが萎縮して結局は耐えた。 誰か…

みんな自分のことを話したい

自分の話に興味がない。自分というものを抽象化して表現したとき他者に理解されたらいいなというのぞみはあるものの、不可能だろうと知っている。 誰しも自分の話がしたいのだと、気づいたときには聞いてあげる側だった。そのまま二十年以上経った。身に起き…

Cascand Ⅱ

「まきちゃんまたおこだね」 わかる? 「壁こわしたらいけないよ」 やっちゃったよ。最悪だよ。修理にすごくかかるよ。 「ほけんおりるかきいてみよー」 詳しいね。 「うん、モニュほけんくわしいよ。まきちゃんまたおこなのもすぐわかるよ」 そっか。 「まきちゃんは…

維管束(1年前の下書き)

死ぬ前に迂回すればいいのだけど、防御力が低く、工夫して生き残る発想力にも乏しいのですぐ死ぬ。きのこの出てこない初期マリオで常に走ってるから、小さくなっていく過程を踏めないのかもしれない。少しずつきのこや花を取っていきたい。そう思いながらた…

Cascando

モニュ、今まきちゃんはおこだよ。 「まきちゃんおこなの?」 うん。 「まきちゃんおこの時どうなるの?」 怖い怖いだよ。 「まきちゃんおこの時こわいこわいなの?モニュにもこわいこわいなの?」 モニュには怖い怖いしないよ。 「まきちゃんモニュにはおこ…

流行り病4

8月23日(火)続き やはり37.2度まで上がる。結局37度台が4日間続いているとも言える。母が白米を届けてくれた。 8月24日(水) 平熱で目覚め、午前中をやり過ごして昼前に微熱を出しながら一日乗り切る流れが定着。体力は戻らない。ビブラートの効いたよう…

流行り病3

8月20日(土)の続きから 熱は下がり、36.6となる。今日の夜上司は米国へ出張へ出る。そう思うと同行はとても無理であった。 13:48 ちょっと顔が熱くなってきたので測ると37.3。36度代との違いは大きい。14時過ぎにまた37.4でそこから貼り付き。午後になると上…

流行り病2

8月18日(木)発症三日 暇なので体温を測ってしまう。38.8から、39.4まで上がったのが17日のピーク。 朝。激烈な喉の痛みは昨日よりあるが、起き抜けの体温は37.3まで下がる。 調子の良いうちに風呂に湯を張り、洗髪と入浴。閉めたままのカーテンの向こうか…

流行り病

週末から何か、起きにくくて眠りすぎる感じがあった。 8月15日(月)普段ならしないような寝坊。多摩永山病院へぎりぎり向かう。12:30出社。バレエレッスンにも行けた。問題なし。 8月16日(火)起き抜けにエアコンで乾燥したときのような喉の痛み。少し不思…

碧眼の令嬢

イギリスからやってきた古い品だという青い石の指輪は、はつらつとした若い娘であった。まだ手元にない、そもそも私のもとへ来てくれるのかもわからないうちから、昨年買って肌身離さずという具合でつけていたものは手放してしまいたくなり、とは言え迷いも…

実のところの第一子

食品は重い。軽いものを食べても腹は膨れないから重いのが良い。しかしもらった食品は重いうえに私は小食を心がけているから、うどんをひと箱、羊羹をひと箱、ずっしりと携えて実家に届けに行った。 母と父は離れた場所にいて、別々のテレビで同じように相撲…

まぼろしを

ちいさな声で何度か、リセ、と呟いているのでたずねると、今度生まれる娘の名にするのだという。理瀬と書くのではなく、何か不思議な字をあてるらしかったが忘れた。不意をつくように私の左手を取る。うなぎ屋さんまで歩く。いつのまにか手を繋いでいる。

そういう頃合

月曜から土曜まで一日おきにクラシックバレエのレッスンがあり(もちろん月曜から金曜の昼間はべつの職業がある)、これは日曜を完全に休養と定めなければものを見る目と言葉を聞く耳が弱ってしまうと痛感する。先週後半から、ヨーロッパからの通話を二人も…

恐れずに立って

極めて若くして、何かのいただきに到達したことのある人物の時間感覚は計り知れない。珍しく昨夜の帰り道、師とふたりになったのだった。「もうあなただけかもしれないから。僕の人生で、本当の最初からすべてを教えてここまで踊れるようになってくれる人は…

訪問客

午前中、宅急便がふたつ来るのはわかっていたので待っていた。ひとつは父がむやみに買った籐椅子で、東南アジアからはるばる、さまざまな事情によって長い時間をかけ船で運ばれてきたのである。彼の自宅には籐の家具がいくつもあり、まあ、いつだったか気分…

厳格な娘

あるときから、母のことを自分の直接の母というよりは父の妻だと思うことにし、父のことは母の夫にすぎないと思うことにした。思うというより元よりそうだったことに気がついたという感じだ。そう思わないと時たまの激昂、いやそんな言葉では追いつかないほ…

「ゆるせない」

「おれ、ロシアゆるせないな」とランドセルを背負った群れの中のひとりが言うのを、自転車で通りすがる時に聞いた。軍国少年はかくして誕生するのだ、簡単なんだこんなの、と思った。ゆるせない、という言葉のひびきが胸の奥に張りついてしまって痞えている…

午睡

微睡みの中で何かつかんだのを感じる。本当は手放すものに気付いたのだった。

君の作るスープは薄い

やあ。自分に、手持ちの野菜、調味料、動物性食品、日ごろから優しくていねいに言葉を交わしたいと思える知人が側に居なくて寂しい。味付けの薄いスープをすするような毎日だ。 知人というよりも友人が、いないことはないが、対話の為替差損が激しく、また私…

なるべく

なるべくつまづかないように、つまづいたとしても転ばないように、転んだとしてもすぐに起き上がれるように、と唱えていたあなたを思って泣いてしまう。

美しいものは素直に

美しいと思ったものをきっとあなたも美しく思うだろうと、聞いてもみずにわかるのは愛だ。 この書き出しもまたいろいろ書き換えた。当初は「美しいものを率直に美しいと言い合える人がいなくて悲しい」と書こうとしたが、言っても無駄だし格好もなんにも良く…

無駄

かえりみるたび舞い戻る。 という書き出しは、本当は、「何度かえりみてもおなじところに戻ってくる、というような話がある。」と書き始めたのだが、どんどん端的に削りたい娑婆っ気がでてきたせいでこうなった。 なるべく人に優しくありたいし、穏やかに受…

部屋

起きてから、如何に起きずにすむか思案、けっきょく体を起こすしかない朝が続く。