望まれて

 嘘をついていいのは自分のことだけですよ、人のやる気や認識をコントロールしようとして嘘をついてはいけないんですよ、と思いついて、言おうとした、本当は言いたかった、言ったらどうなるか恐ろしくなった、とどんどん気持ちが萎縮して結局は耐えた。

誰かに請われ望まれて、人に見せるための踊りを踊ることを運命づけられた人に会った。みずからが悦に入るために楽しく踊りを使う人ばかり何年も見ていたものだから、あまりにも眩しくて眩暈がした。輝きに圧倒され、身体の関節すらうまく機能せず、錆びたブリキのようなぎこちない動きでおのれのみじめな肉体を知るしかなかった。素晴らしい世界の転換だった。

そして、望まれて書く、ことしか自分にはなかった、自分自身の愉楽のためでなく、誰かに読まれるための文章しか書いたことがなかったという点で、私も彼女と同じ種類の存在なのだ、本当は、と気がついて眩しさから目の覚める思いがした。