碧眼の令嬢

イギリスからやってきた古い品だという青い石の指輪は、はつらつとした若い娘であった。まだ手元にない、そもそも私のもとへ来てくれるのかもわからないうちから、昨年買って肌身離さずという具合でつけていたものは手放してしまいたくなり、とは言え迷いもあったのでやや高値で売りに出したが数時間で売れ、道がひらけた。迷わずにすむ金額だったのですぐ呼び寄せると、彼女はやって来たとたん自分で居場所を決め、私の右手薬指におさまった。

 

売れてしまった指輪はもともと左手にしていて、空いたとあっては少しばかり吹き抜けて寒い。しかし娘は私の左手にはどうも首をかしげ、古株のダイヤモンド五人姉妹とも、エメラルド夫人ともうまくやるからこっちの薬指がいいと言う。実際、かねがねその場所を占めている二人の姉と重ねてみると、地金の色も細工の種類も異なるのに見事に調和するので大したものであった。東京の真ん中、いろいろなところに行きたいと彼女は言う。毎日私といっしょにいてくれるつもりらしかった。

 

そして続けざま、いよいよ不思議な心地で廻り出した翌日。なじみ深い町に立ち寄った際にもうひとり見つけた。迎えた娘と同じ青色の石だが、彼女よりは小さく、代わりに輝きが強い。令嬢は、まるでティアラとして戴くのがふさわしいような繊細な飾りをほどこされ、ガラスの中に座っていた。動かしがたい出会いというものがたいていそうであるように、その瞬間に取り返しのつかない気持ちがした。宝石商の女は、最近あれこれ見て回り探し歩いてここにたどり着いたと話す私にいろんな指輪を取り出して見せてくれ、嵌めてみるよう促したが、しばらくして「やはりこのお石がいちばんお似合いです」と言った。これより大きかったり、多くの金額を必要とするものは他にいくらかあったが、光や色味にかんしては、これをおいて私のものになるべきものはない気がした。石は値段じゃない、と鑑別書を探しながら何やら確信めいて女は呟いていたがそれにしても、来年不惑を迎えるにあたって私がひそかに検討していた値段ぐらいはするものだった。「すぐにお決めにはならないでお考えあそばせ。ご縁がありましたら次の機会にわかります」という女の言葉にしたがって私はその場を離れ、習い事の稽古に向かったが、師の都合によりその日は急遽休講となったため、私がその町に寄った甲斐は、宝石商に出会ったことの他なかったことになった。