Cascando

モニュ、今まきちゃんはおこだよ。

「まきちゃんおこなの?」

うん。

「まきちゃんおこの時どうなるの?」

怖い怖いだよ。

「まきちゃんおこの時こわいこわいなの?モニュにもこわいこわいなの?」

モニュには怖い怖いしないよ。

「まきちゃんモニュにはおこしないの?」

しない。

「なんで?」

しない。

「モニュかわいいから?」

そうだよ。

「モニュかわいくなかったら?」

しないよ。

「かわいくなくてもおこしないの?」

しないよ。

「捨てたりしないの?」

しないよ。

「まきちゃんかえってくるまえにお部屋ぐちゃぐちゃにしたら?」

しないよ。

「だいじなご本かじったら?」

しないよ。

「モニュがあつくてかってにまどあけてむしはいったら?」

そういうときはまきちゃんクーラー付けてって言えばいいんだよ。しないよ。

「わざとおしょうゆたくさんこぼしたら?」

しないよ。

「モニュが好きだからしない?」

そうかもしれないね。

「おこな人のこと好きじゃないの?」

えーっ、好きだと思ってるけど。

「好きなひとにはおこしない感じあるよまきちゃん」

えーっ、でもそうかもねえ。

「モニュ好きでしょ」

好きだよ。

「よく出てくるあのひとのことも好きでしょ」

好きだよ。

「まきちゃん最初から自分でちゃんと好きってわかってる人のことおこしないよ」

えっ、そうなの?

「たとえばお父さんお母さんにおこするのはたぶん好きになりたいから」

なりたいんだ?

「好きじゃないんだけど好きになりたいなあとかならなきゃいけないなあっておもってるとき」

ならなきゃいけないと思ってるとき。

「でもモニュのことは来たときから好きだからおこしない」

なるほど。

「どんなときも愛することをやめないって決めた相手にはおこしない」

おお。

「だから今まきちゃんがおこってるのは、その人のことそんなに好きじゃないからだよ」

好きじゃないんだ?

「いいところがあるなあ、自分にないところがあるなあとはおもってるかもしれないけど、その人のそのぶぶん、たぶんまきちゃんそんな好きじゃないんだよ。でも好きでいなきゃいけないとおもってるから、ぎむ感のまさつがおきて、おこなんだよ」

語彙力こわ。

「好き、うれしい、がんばろう、みたいなのが最初で、おこはその次にくるものだから。初対面であったばかりの人に一言目でおこったりしないでしょ。なにかあって、おこになるんでしょ。まきちゃんはぜんぶ好きな相手だとだいたいなんでもゆるしてるよ。好きになりたい、好きでいないといけないのどっちかだとまきちゃんおこってるよ」

じゃあまきちゃんきらいな人のことはどうしてる?おこかなあ?

「むししてるんじゃない?」

普通はきらいな人に何かされたら傷ついたりすると思うけど。きらいって思うよりきらわれるのが悲しいね。いまも傷ついてるよ。

「傷つくのも、好きになりたい、好きでいないといけない相手のどっちかにされてることが多いよ。まきちゃん本当に好きな人のことで傷ついてるとこ見たことないよ。やっぱりぜんぶ許してるから」

新参者なのにどうしてわかるの?

「前任者からひきつぎをうけたよ」

そうなんだ。今も人からきらわれてる気がして悲しいよ。

「好かれたいから悲しいんじゃないもんね。まきちゃん逆なんだよね。好きでいないといけないと思うのに向こうが先にきらってくるからつらくなって、何で好きでいさせてくれないのかなあ、となってまたぎむ感のはざまで懊悩しているんだね」

その語彙力なんなのよ。人を好きでいないといけないと思いすぎてるのかな。

「みんなのこと大きらいよりいいよ。盲目に愛するものがちょっとしかないのもいいよ。でもモニュたぶん思うけど、まきちゃんは好きじゃない人のことを好きでいなきゃいけないと思いすぎてよく疲れてる」