2022-03-01から1ヶ月間の記事一覧

実のところの第一子

食品は重い。軽いものを食べても腹は膨れないから重いのが良い。しかしもらった食品は重いうえに私は小食を心がけているから、うどんをひと箱、羊羹をひと箱、ずっしりと携えて実家に届けに行った。 母と父は離れた場所にいて、別々のテレビで同じように相撲…

まぼろしを

ちいさな声で何度か、リセ、と呟いているのでたずねると、今度生まれる娘の名にするのだという。理瀬と書くのではなく、何か不思議な字をあてるらしかったが忘れた。不意をつくように私の左手を取る。うなぎ屋さんまで歩く。いつのまにか手を繋いでいる。

そういう頃合

月曜から土曜まで一日おきにクラシックバレエのレッスンがあり(もちろん月曜から金曜の昼間はべつの職業がある)、これは日曜を完全に休養と定めなければものを見る目と言葉を聞く耳が弱ってしまうと痛感する。先週後半から、ヨーロッパからの通話を二人も…

恐れずに立って

極めて若くして、何かのいただきに到達したことのある人物の時間感覚は計り知れない。珍しく昨夜の帰り道、師とふたりになったのだった。「もうあなただけかもしれないから。僕の人生で、本当の最初からすべてを教えてここまで踊れるようになってくれる人は…

訪問客

午前中、宅急便がふたつ来るのはわかっていたので待っていた。ひとつは父がむやみに買った籐椅子で、東南アジアからはるばる、さまざまな事情によって長い時間をかけ船で運ばれてきたのである。彼の自宅には籐の家具がいくつもあり、まあ、いつだったか気分…

厳格な娘

あるときから、母のことを自分の直接の母というよりは父の妻だと思うことにし、父のことは母の夫にすぎないと思うことにした。思うというより元よりそうだったことに気がついたという感じだ。そう思わないと時たまの激昂、いやそんな言葉では追いつかないほ…

「ゆるせない」

「おれ、ロシアゆるせないな」とランドセルを背負った群れの中のひとりが言うのを、自転車で通りすがる時に聞いた。軍国少年はかくして誕生するのだ、簡単なんだこんなの、と思った。ゆるせない、という言葉のひびきが胸の奥に張りついてしまって痞えている…

午睡

微睡みの中で何かつかんだのを感じる。本当は手放すものに気付いたのだった。

君の作るスープは薄い

やあ。自分に、手持ちの野菜、調味料、動物性食品、日ごろから優しくていねいに言葉を交わしたいと思える知人が側に居なくて寂しい。味付けの薄いスープをすするような毎日だ。 知人というよりも友人が、いないことはないが、対話の為替差損が激しく、また私…